最近何かを買うために、長い行列に並ぶことは少ない。
年を重ねて経験が増えるに連れ、そこまで長い行列に進んで、これが欲しい!これを食べたい!というものが少なくなる。
どちらかと言うと私はミーハーな方だと思うが、それでも長い行列に並ぶということは少なくなった。長い行列思い浮かぶとしたら、ディズニーランド位だろうか。
そんな私が最近長く並んだ店がある。
それが有名な焼肉店・スタミナ苑だ。17時過ぎに並び始め、なんと並んで待っていた時間は3時間。
こんなに立って並んでいたことは、近年記憶にない。どれ位長いかというと、並んでいる内に、一つの推薦状が書き終わってもまだまだ時間が余る程の長さだ。寒さもあるのか、後半は一緒に行った友人のテンションも変に高くなっていった。
長い行列がある、ということは人気店の証だ。ただの焼肉店なので、予約制にすればそれで済む話なのだが、それをそうしないところがこの店のうまいところだ。
予約で行けるようになってしまうと、「長く並んで待たないと食べれない名店」というブランドは築けない。
さらにそこには、「かつて首相も並んで食べた」という本当か嘘かわからない噂も加わり、その伝説的なブランドに大きなプラスとなっている。
ビジネス的に利益の最大化を目指すのであれば、顧客満足を考えて予約制を取り入れたり、2店舗3店舗と店舗拡大をすることが筋だろう。実際に、ちょっと店舗拡大をしても人気店でい続けることはできるだろう。
ただし、それでは今のような「首相も並んで待たないと食べれない人気焼肉屋」というブランドは守れない。
需要(お客の数)に対して、供給(客席や営業日など)が小さいからこそ、こうした人気店ブランドを保てるのだ。供給を絞ることがポイントなのだ。
こうした焼肉屋がどれ程、マーケティングについて考えているのか定かではないが、「長い行列ができるお店」ブランドとしては、ここは一番手だと思う。
ちなみにこの焼肉屋は食べログも評価が高く、かつてザガットサーベイの東京一のレストランになったらしい。
しかし個人的感想として、「東京一おいしい」は、さすがに言い過ぎだと感じた。
もちろん不味いわけではないが、ここが東京一の焼肉屋と言ったら、他の本当においしい焼肉屋は黙っていないだろう。
食べログやザガットは、CGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)と言われる一般消費者の作るメディアな訳だが、その弱点をモロに見た気がした。
例えばミシュランの評価や評価者には基準があるが、食べログなどのCGMにはその基準はない。店ごとの評価や、評価者のレベルを一定にできないことが、CGMのデメリットだ。勿論、そういった細かい誤差はあるけど、全体としては大体合ってるだろうからいいよね、というのがCGMのコンセプトだ。だからその情報が多少おかしくてもしょうがないと思う一方で、わざわざお金をかけて買ったミシュランの店が不味かったら、怒りを買いやすい。
(ミシュラン東京2015がちょうど出たみたい。)
私は日本の食文化は本当に世界一だと思っているし、東京のレストランのレベルの高さは非常に高いと思う。
ミシュランの評価に従って、三ツ星が多ければなんでもいいという訳ではないが、ミシュランでも日本のレストランが高く評価されていることは嬉しい。
今回のスタミナ苑に関して、私が感心した点は、「味そのものよりもマーケティングがうまい」ことだ。
待つとか待たないとか、ロケーションとか別にしても、味という観点で、ここがベストの焼肉屋でないことは、真の肉好きならば明白だろう。
しかし、この店のマーケティングは秀逸だ。
長く待つということは、「こんなに時間を費やして待ったのだから、おいしいに決まっている」、「待っている間に腹が減ってその分おいしく感じる」という心理的・肉体的なプラス効果がある。
スタミナ苑は、そうした効果や行列・伝説的逸話を組み合わせた、マーケティングに長けた著名焼肉店と言えるだろう。
「良いものであれば、売れる。」ということは必ずしも真ならずだ。良いものでも知られなければ、売れようがない。またどう良いのかを適切な相手にしっかり伝えなければ、売れることはない。
同時に「売れているものならば、良いものだ」も必ずしも真ではない。
マーケティングがうまければ、商品力がそれ程でなくても売れてしまうという意味では、この「長い行列マーケティング」はとても興味深い。
アリヴェデルチッ!