アマゾンで本の価格が安くなる?競争のルールを変える思考法

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難しい勝負に勝つためには、どうすればいいだろうか?

普通に考えるのは、そのルールの中で勝つための力をつけることだ。

ただ、それだけが勝利の方程式ではない。

勝てるようにルールを変えるというのは、どうだろうか?

先日こんな記事があった。
ついにアマゾンが書籍の「安売り」を始めた!

doraemon

(六本木ヒルズで撮影:競争のルールを一気に変える、ドラえもんの道具のような打ち出の小槌は、どこにあるのだろうか?)

通常、本はどこの本屋で買っても、価格は同じだ。

本で価格を何割引きするとか、バーゲンというのは見たことがない。

これが家電や食べ物であれば、同じものでも価格は店ごとに違い、それぞれが価格競争をしている。

読書好きの1人の生活者としては、本屋にも競争原理が働き、安く買えたりしたら嬉しいものだ。

 

本の価格はどこでも同じという既存のルール。

そこに対して、アマゾンは風穴をあげようとしているのだ。

上記の記事によれば、

当然、アマゾンが目指しているのは新刊を含む、完全な自由価格だ。米国やイギリスでは、小売り事業者は新刊の段階で自由な値付けで販売できる。出版社が決めることができるのは「卸値」だけであり、販売価格(再販価格)を決めるのは小売り業者なのだ。

まず一部の出版社との取り組みで前例をつくりあげ、そこに顧客の支持があることを示すことで、大きく業界の構造を変えていくのが、アマゾンの作戦だ。公正取引委員会が例外的に認めてきた、「再販価格の拘束」は、風前の灯なのかもしれない。

ということで、アマゾンの目指していることは、新刊を含む完全な自由価格のようだ。

自由価格になれば、アマゾンほどの大きな書店になればなるほど、たくさんの本を仕入れては売るので、スケールメリットがきいて、他より安く仕入れることができる。

そうすればAmazonの競争力はさらに増し、これまで以上にビジネス競争力をつけるだろう。

 

私が今回言いたいことは、本が安くなって嬉しいということではなく、アマゾンのそのしたたかな戦略だ。

これまでは「本の価格は同じ」というルールの中で、本屋は競争していた。

しかしアマゾンは、どうやったら本が売れるか?、を考える中で、「本の価格は同じ」という前提・ルールそのものに疑いを持った。

そして自社やお客にメリットがあると考えた方向に、ルールそのものを変えようとしているのだ。

そしてその際に、重要な力となっているのが、「既成事実化力」だ。

今回のアマゾンも、気づいたら本は自由価格になっていた、という既成事実を作るための第一歩だろう。

 

勝てるようにルールを変える既成事実化力という点では、やはりグーグルのライブラリプロジェクトが記憶に強く残っている。

Google booksとは、「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」というミッションを掲げるグーグルが行う大プロジェクトだ。

世界中の本をスキャンしてデジタルデータ化して、グーグルで検索できるようにする壮大な企画だ。

当時この超巨大構想に対して、焦ったのが従来の紙メディア、コンテンツ企業だ。

そんなことをされたら、存亡危機だ、そもそも著作者の権利は守られていないのではないかと。

google books

ただグーグルは、本気でルールを変えた。

そんな議論が起きつつも、当時グーグルはアメリカで「公共図書館にあるような書籍は全て、公共財であり、フェアユースである」という主張のもと、片っ端から何百万冊もの本をスキャンして、データ化して既成事実を作ってしまった。

議論が起こっている内に、既にデータ化したという事実を作り、そのまま和解にもって行ってしまった。

Google、米出版社協会と電子書籍化プロジェクト訴訟で和解

「勝手に大規模にスキャン⇒原告と和解」という道筋は強引に見えてその実、非常にシタタカである。

 

勝負に勝つためには、勝てるようにルールを変える。

グーグルは勝手に本をデータ化して既成事実化を進めただけではない。その過程でルールを変えようとした。

この場合、本を勝手にコピーすると、著作権侵害に関して著作権者との戦いになる。

グーグルブックスでは、これまでの「著作権は事前許諾を求める」というルール(オプトイン)を、「著作権に関して問題がある場合は、後からグーグルに著作権者が申し入れる」というルール(オプトアウト)に変える、ルール変更の戦いでもあった。

当時の和解案を見ると、結局「権利処理が必要な場合は、権利者からグーグルに抗議し、著作権料の支払いまたは掲載取り下げを求める」と、いつの間にか著作権使用許諾の事後報告になっている。

 

考えてみれば、Googleはストリートビューでも凄かった。世界中の道をビデオを搭載した車で走りまわって、様子を撮影。色々とクレームも出たが、一旦サービスを完成させたら後は微修正対応という形で、これも既成事実化。

street view

法律的にどうこう議論している内に、既にサービスがどんどんできている、そんな状況だ。

法律的にまだわからないところは、どんどんやってみて、やりながら調整していくのだ。

正にオプトアウト的発想だ。

 

自分達のミッションを忠実に実行し、必要であれば戦略的に既成事実化力を使って競争のルールを、自分に有利な方向に変えていく。

これが圧倒的な勝者となる1つの方法だ。

訴訟社会のアメリカだと、クレームが出て訴えられたら大変だと思いがちだが、無謀に見えても、リスクとリターンをしっかり考慮しての行動だろう。

 

日本は国も企業も、何かしらのルールやデファクトスタンダードがあるという前提で、そのルールの中で良く戦う方法を考えて実行するのがうまい。

だが勝つためにルール自体を作る・変える、という点ではどうだろうか。

勝つためにルールを変える努力をする、という点ではスポーツも一緒だ。

かつて最強を誇った日本スキージャンプの「日の丸飛行隊」が、ルール変更後に勝てなくなってしまったことは、競争のルールが変わってしまったことと無縁ではないだろう。

 

勝つためにルールを変えたり、作ることが可能だという視点を持つことこそ、重要ではないだろうか。

 

アリヴェデルチッ!